結婚式や縁起物の場面でときどき目にする「相生の松」。クイズや検定で「相生の松で知られる兵庫県の市は?」と問われて、答えに迷った方もいるかもしれません。この記事では、相生の松の読み方と意味、能「高砂」に由来する物語、そして高砂神社をはじめ全国の相生の松をご紹介します。
相生の松とは?読み方と意味
相生の松(あいおいのまつ)とは、一つの根から雌雄二本の幹が寄り添うように立ち上がった松のことです。黒松と赤松が同じ根から生え出たものを指すこともあります。
松はもともと、一年中緑を絶やさないことから永遠や長寿の象徴とされてきました。そこに「二本の幹が一つの根から生まれ、共に育つ」姿が重なることで、相生の松は特に縁結び・夫婦和合・長寿のシンボルとされています。「相生(あいおい)」が「相老い(ともに年を重ねること)」に通じる点も、夫婦円満の縁起物として愛されてきた理由です。
由来は能「高砂」──離れていても心は通う夫婦の松
相生の松がこれほど結婚と結びついたのは、室町時代に世阿弥が作ったと伝わる能「高砂」の力が大きいといわれます。
物語の舞台は播磨国・高砂の浦(現在の兵庫県高砂市)。九州の阿蘇神社の神主・友成が旅の途中で高砂の松のもとを訪れると、松の木陰を掃き清める老夫婦に出会います。ふたりは「高砂の松と住吉(大阪)の松は、遠く離れていても夫婦である相生の松」といういわれを語り、実は自分たちこそその松の精であると明かして、住吉での再会を約束し小舟で去っていきます。友成が舟で後を追う場面で謡われるのが、結婚披露宴でおなじみの「高砂や この浦舟に帆を上げて」の一節です。
兵庫の高砂と大阪の住吉。遠く離れたふたつの松が夫婦であるという物語は、「距離を隔てても夫婦の心は通い合う」ことの象徴として、結婚のお祝いに欠かせないモチーフになりました。なお、高砂と住吉の松を夫婦になぞらえる発想は、能よりさらに古く『古今和歌集』の仮名序にみえる一節が元になったと考えられています。
「相生の松」で知られる兵庫県の市はどこ?
答えは高砂市(たかさごし)です。クイズや検定で出題される場合、能「高砂」の舞台であり相生の松を祀る高砂神社がある高砂市が正解とされるのが一般的です。
まぎらわしいことに、兵庫県には「相生市(あいおいし)」という市も実在します。名前だけを見ると相生市と答えたくなりますが、相生の松の伝承地は高砂市なので注意してください。また、高砂市の隣の加古川市にある尾上神社にも「相生の松(尾上の松)」が代々祀られており、播磨地方が古くから松の名所であったことがうかがえます。
高砂神社の相生の松──現在は5代目
相生の松の代表格が、兵庫県高砂市の高砂神社にある松です。社伝によれば、神社の創建からまもなく、一つの根から雌雄の幹が左右に分かれた松が境内に生え出ました。そこへ尉(じょう)と姥(うば)の姿をした二神──イザナギ・イザナミ──が現れ、「我は今より神霊をこの木に宿し、世に夫婦の道を示さん」と告げたことから、この松は「相生の霊松」と呼ばれ、縁結びと夫婦和合の象徴として信仰されるようになったと伝えられています。
松は代替わりを重ねながら、現在まで大切に受け継がれてきました。初代は天禄年間に、2代目は天正年間の戦火で枯れたと伝わります。江戸時代には姫路藩主・本多忠政が3代目を植え、この松は大正13年(1924年)に天然記念物に指定されましたが、昭和12年(1937年)に枯死。その幹は今も境内の霊松殿に保存されており、間近に見ることができます。4代目は松くい虫の被害で短命に終わり、現在境内に枝を張るのは5代目の相生の松です(出典:高砂市公式サイト「尉と姥伝説」/高砂神社公式サイト「相生松と尉と姥」)。
結納品や結婚式の飾りでおなじみの「尉と姥」の人形は、この高砂の伝承が発祥です。尉が持つ熊手は寿福をかき集め、姥が持つ箒は厄を祓うことを表すとされ、夫婦円満と長寿の願いが込められています。
全国の相生の松
「相生の松」と呼ばれる松は、高砂だけでなく日本各地の社寺に伝わっています。ふたりの旅行やお参りの際に立ち寄ってみるのも素敵です。
住吉大社(大阪市住吉区)──能「高砂」で高砂の松と夫婦とされる「住の江の松」の地。全国の住吉神社の総本社で、境内の末社・侍者社(おもとしゃ)は縁結びの信仰を集めています。高砂とあわせて訪れると、物語の世界をたどる旅になります。
尾上神社(兵庫県加古川市)──「尾上の松」とも呼ばれる相生の松が代々祀られています。高砂神社とは加古川を挟んだ近さで、松の名所・播磨をめぐるならセットで参拝できます。
松尾大社(京都市西京区)──お酒の神様として名高い古社で、本殿前に相生の松が祀られ、恋愛成就や家内安全のご神徳で知られています。
宝登山神社(埼玉県長瀞町)──ご成婚を祝って地元の青年団が植えたと伝わる相生の松があり、町の文化財に指定されています。
相生の松に関するよくある質問
まとめ:一つの根から、ふたりで育つ
相生の松とは、一つの根から雌雄の幹が寄り添い立つ松であり、能「高砂」の物語を通じて夫婦円満・長寿の象徴として愛されてきた存在です。「相生の松で知られる兵庫県の市」と問われたら、答えは高砂市。その高砂神社では、初代から数えて5代目の松が今も枝を伸ばしています。
離れていても心は通い合い、ともに年を重ねていく──相生の松に込められた願いは、時代が変わっても色あせません。おふたりの節目の参拝先やおでかけ先に、松の伝説の地を選んでみてはいかがでしょうか。




